第4話 夜の海はどこでもドアだ
■イノウエゼンキチ
自転車屋の店主であるイノウエゼンキチ(石倉三郎)。半年前の夜中の2時に、今どうしても必要だと自転車を買いに来たゆかり。「我慢できないことってあるんですね」と言い残し去るはずが、ゆかりは、自転車には乗れなかった。そんなわけで、毎日のように自転車の練習に通っているうちに、自転車屋の客である中国や東南アジアからの出稼ぎ外国人たちと仲良くなり、『三浦ヤッホー倶楽部』というサイクリング同好会を作ってしまった。そして、月一回のサイクリングを楽しんでいたのだ。
パンクの穴を探しながらイノウエは呟く「自転車を買いに来た時だけはいつのもゆかりではなかった。人は見かけによらない。どこにどんな穴が隠れているのかわからない。穴は隠れている」。見かけ通りの人間が見かけ通りの行動をするのならいいけど、人はそう単純なものではない。人の心の奥にはどんな穴が隠れているのか、それは分からないものなんだ。ゆかりの穴探しは続く。
■リュウホウエイ
『三浦ヤッホー倶楽部』でゆかりと一番の仲良しだったリュウホウエイ(チューヤン)。ゆかりに好意を持っていて、先々週、酔った勢いでみんなに乗せられてゆかりのマンションを訪ねた。中国に妻子があるのに、3時間後ガッツポーズで帰ってきたという。
玲子は、その話に嫌悪感を覚え、「お姉ちゃんは強盗殺人だ」と呟いた意味を語った。一昨年のクリスマス、玲子が必死の思いで誘った大好きな先輩を、ふらりと帰ってきたゆかりが、玲子が眠った隙に味見してしまったのだ。「私の大事な人を奪って、私の心は死んだ」、だから「お姉ちゃんは強盗殺人」だと言う。
今回のリュウとの話もゆかりの思いつきの一夜話かと思った玲子、しかし違った。ホームシックという同情で落とそうと思ったリュウをゆかりは夜の海に連れて行った。「夜の海は景色がないから、ここは逗子だけど、バリ島かもしれない、ケアンズかもしれない、ハワイかもしれない、それから……」と言ったのだ。「私の村と同じです」とリュウは涙を流した。「夜の海はどこでもドアだ」とゆかりは言った。また、涙を流すリュウの声を聞きながら、みんなの心に生きている姉を感じるのだった。
玲子は自分の携帯のメモリー6件を思い出し、自分は生きていても死んでいると感じていた。人と関わることは摩擦を生むことも多い、でも人と関わることで人はあらゆる感情を生み、本当に生きているということを感じるのかもしれない。
■吉川良夫の豆知識
- 日本の自殺率、ロシア、フィンランドに続いて世界第3位なんです。女性においてはTOPなんです。15分に一人が自分の命を絶っている。ちなみに一番自殺少ないのがメキシコで、でも殺人事件が世界一です。
- 石川啄木は19歳で「あこがれ」を書き、泉鏡花も19歳で「冠彌左衞門」を書き、芥川龍之介は22歳で「老年」を書き、ヘミングウェイは25歳で「In Our Time. 」を書いたんです。20も半ば過ぎたら遅いんです、世間と妥協するしかない。
- ゆかりが吉川良夫から聞いた豆知識:雄鶏は一日の6回交尾するんだけど、相手を変えるとプラス60回できるんだって、オスは5度限界なんだけど、相手を変えるとプラス3回できるんだって。
桜の言葉:男も女もチーズもちょっと腐ると味が一番いいの。死ぬけど食べたいふぐの肝。
公開:2004/02/15 文・みど イラスト・あし(c) 2003 RGS680,all rights reserved.