予備知識なしで読んでみて:沖で待つ(絲山秋子)
何かを評する場合、ほめるよりけなす方が賢そうに見える。
でも、この「沖で待つ」の場合は逆で、けなした方が頭悪そうに思えてしまうという不思議な作品だ。
たとえばこの作品、主人公である「私」による叙述という設定のため、です・ます調のぎこちない文章になっている。これを「文章力がない」とか批判すると、分かってないなぁと思われるってわけね。
また、「芥川賞受賞作」というのが与えている権威みたいなものも、この作品を後ろから支えているのだろう。
えっ!?というほど短くあっけない小説なので、「これが芥川賞かよ」とツッコミたくなるところを、いやまて芥川賞だし何か深いモノがあるはずだ、と思いとどまらせる力が働いている気もする。
そういったところから、この小説にダメ出しするのは、「王様は裸だ」と言うように勇気がいる行為のように思えてくる。
ではじゃあこの小説って、「芥川賞」とか「小説の技巧」とかのまとっているものを脱ぎ去ったあとは何も残らないかというと、そんなことはないとわたしは思う。
いろんな深読みができるような余白の多い作品であり、そのへん作者は意図して書いたのだろうが、じわじわとあなたの心のハードディスクに何かを残していく小説だと思うよ。
なお、この小説の設定であるハードディスクがうんたらというところには、あえてここでは触れない。 さんざん各所で紹介されてるのですぐに分かってしまうと思うが、できれば予備知識なしで読んでほしいと思う。 この小説の不幸は、芥川賞を受賞して有名になったため、ほとんどの人がこの設定を知った上で読んでいるところなのかも。知らずに読んだら私自身もっと楽しめたかもと思うとちょっと残念。
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